今はオフィスのネットワークを手軽に構築できる時代ですが、性能問題を扱う場合には多少の専門知識が必要です。
ネットワークの規格がいくつもあり、また性能に影響を及ぼす要素が複数あるので、シンプルな基準があると良いです。
本記事では、実際の測定結果をもとに、小規模オフィスにおけるネットワーク性能改善のための基準と考え方を解説します。
有線LANと無線LANの主な規格
規格 | 最大通信速度 | 周波数帯 | |
---|---|---|---|
2.4GHz | 5GHz | ||
IEEE802.11b | 11Mbps | 〇 | |
IEEE802.11g | 54Mbps | 〇 | |
IEEE802.11a | 54Mbps | 〇 | |
IEEE802.11n | 600Mbps | 〇 | 〇 |
IEEE802.11ac | 6.9Gbps | 〇 | |
IEEE802.11ax | 9.6Gbps | 〇 | 〇 |
カテゴリ | 通信速度 |
---|---|
CAT.5 | 100Mbps |
CAT.5e | 1Gbps |
CAT.6 | 1Gbps |
CAT.7 | 10Gbps |
CAT.7A | 10Gbps |
CAT.8 | 40Gbps |
赤枠は、記事執筆時点(2021年12月現在)において広く使われている規格です。
規格だけを見ると、IEEE802.11nでは有線LANの6割程度、IEEE802.11acでは有線LANの7倍程度の性能が出るように見えますが、実際にはかなり違います。
インターネット経由の通信における考慮事項
図1.インターネットを介した通信 | 図2.簡略化した図 |
インターネット経由で通信をする際には、自分と通信相手との間にいくつものネットワークがあります(図1)。
性能問題を扱う際、考えやすくするために簡略化したものが図2です。
大きく分けて、自分のネットワーク(ネットワークA)と、プロバイダ、相手のネットワーク(ネットワークF)の3つに分けて考え、ボトルネックを見つけ出す必要があります。
スピードテストサイトによる性能測定を行う際には、ネットワークFの遅延についてはあまり意識する必要はありませんが、ネットワークAはボトルネックになる可能性があるので注意が必要です。
実際には、プロバイダは図2のように1つではないので、性能を評価する際には状況によって判断が必要です。
社内ネットワークにおける考慮事項
ネットワークの性能については、トラフィックと伝送速度に分けて考えます。
トラフィックとは、ネットワーク上を流れるデータ量のことで、道路に例えると交通量を示します。
社内ネットワークにおいては、メールの添付ファイルやファイルサーバへのアクセスによって大容量のファイルがネットワーク上を流れることが多いか、データベースの検索によって大量の検索結果がネットワークを流れることが多いか、などについて検討します。
性能を向上させたい通信処理が、どのぐらいのトラフィックを占めるのかを把握します。
伝送速度とはネットワークの処理能力のことです。単位はbps(Bits Per Second)で表されます。
速度といっても、光の速さや電流の流れる速さは一定です。その通信方式を用いたときに、短い時間でより多くのデータを送ることができる場合に伝送速度が速いと考えます。
道路に例えると道路の幅(車線の数)を示します。
性能低下の原因を知る際には、トラフィックと伝送速度について詳しく分析していきます。
有線LANと無線LANのどちらを使っているか、有線LANなら古い規格にしか対応していない機器やケーブルを使っていないか、無線LANなら電波の弱いところは無いか、などについて検討します。
できれば、配線を調べてネットワーク構成図を作っておくのがベストです。難しい場合には、ボトルネックになっていそうな箇所だけでも構いません。
Webミーティングや動画再生などのマルチメディア通信においては、PCの処理能力(CPUやグラフィックボード)がボトルネックになっている場合があります。
データベースの検索においては、データベースサーバの処理能力(CPU/メモリ/ディスク)やデータベース設計、検索ロジック、排他制御、データの特性とデータ量に基づいて総合的な判断が必要です。
無線LANにおける考慮事項
無線LANにおいては、以下の項目について考慮する必要があります。
(1) 電波強度
(2) 規格
(3) 端末までの距離や障害物の有無
(4) チャネルの干渉
(5) 混み具合
また、アンテナ数についても触れておきます。
伝送速度は、ルータのアンテナ数とPCのアンテナ数とで少ない方の速度に制約されます。
PCのアンテナ数は、デバイスマネージャー(Windows10の場合)でLANアダプタの種類を確認し、そのアダプタの仕様を調べれば分かります。
規格 | 最大通信速度 (規格) |
ルータの最大通信速度 (アンテナ4本) |
PCの最大通信速度 (アンテナ1本) |
---|---|---|---|
IEEE802.11n | 600Mbps | 600Mbps | 150Mbps |
IEEE802.11ac | 6.9Gbps | 1,733Mbps | 433Mbps |
上の図は、ルータのアンテナが4本、PC(LANアダプタ)のアンテナが1本の場合を想定して、最大通信速度を示したものです。
有線LANと比べて、無線LANは理論値の最大で15%~40%ぐらいの性能になります。
小規模オフィスではこのパターンが多いのではないでしょうか。
参考:IO DATA「アンテナの本数による速度の違い」
実測値をもとにした基準
上の図は、当社のオフィスで測定した値をもとに作成した通信速度の目安です。
その元になった測定値や測定方法について、次回(中編)解説します。