業務システムを導入する際にパッケージソフトを適用するとしても、ソフトウェアの設計について知ることには大きなメリットがあります。
なぜなら、システム化の企画も一種の設計行為であり、抑えておくべきポイントや起こり得る問題点が似ているからです。
そして、パッケージソフトには設計思想が必ずあり、その設計思想について理解を深めることにより、適用可否判断の助けになるでしょう。

他のものづくりと異なるソフトウェア開発の特性として、設計と製造の区別がはっきりしないという点があります。業者にプログラム開発を依頼する場合においても設計の知識は役に立つはずです。

無形の人工物を考案するソフトウェア設計について、設計学のテキストを紐解きながら、ソフトウェア業界以外の人が理解しやすいように解説します。

▶ 「システム導入の進め方(概要編)」記事はこちら
▶ 「システム導入の進め方(企画編)」記事はこちら

この記事は会員限定です。会員登録(無料)すると全てご覧いただけます。

設計とは

設計とは人間に備わる普遍的な能力であり、以下のような行為です。
(1)どのような人工物を創造するかを考案、指示する行為
(2)属性などを決定していく行為
(3)要求の変換
(4)複数の解に対して、最適なものを判断する行為

システムを導入する際に特に重要視して欲しいのは(3)です。
なぜなら、プロジェクトメンバーがシステムの導入に慣れていない場合、最初の要求情報が乏しく、システムの完成間際になってから「想像していたのと違う」という結果になるケースがあるからです。

例えば、工業製品の製品企画においては、市場のニーズや競合製品の情報、及び自社のシーズを入力として、製品への要求を決定していきます。そして概念設計においては、製品企画において決定された製品に対する市場要求を入力として、技術的な要求に変換し、製品が果たすべき機能を明確化していきます。そして基本設計において実現可能性を検討し、コストや納期も含めた上で、機能を要求に対して最適化します。それから詳細設計を行い、製造可能なレベルまで細部にわたり決定します。

システムの導入においては、企画段階で事業戦略に基づき経営課題を抽出し、技術動向の調査、対象業務の選定、投資目標やスケジュールの立案をします。要件定義においては、それらの情報を入力として、システムに要求されることがら(要件)に変換していきます。パッケージソフト導入の場合はこの段階で適用可否が判断されています。その後の基本設計において、パッケージソフトが適用可能であればパラメタの設定やアドオンの設計、システム開発であれば画面や帳票のレイアウトなどを決定していきます。最近では、システムの実装方式の選択肢が非常に多いため、ネットワーク構成やミドルウェアの組み合わせ、モジュール化などについても多方面から検討する必要があり、基本設計において行うべき作業が増えています。詳細設計においては、それらの基本仕様を満たすように、ソフトウェアの内部構造を決定していきます。

システム導入において、業者にほとんど任せることができるのは詳細設計以降です。それ以前の工程はユーザ側との共同作業です。それぞれの設計段階において入力となる情報が不足、もしくは決定があいまいな状態で業者に任せてしまうと、期待したものとは似ても似つかないようなシステムが納入されてしまい、残念な結果になってしまいます。前工程になればなるほど、ユーザ側が主体的になって決定していく必要があるので、業者の適切な支援を要請することが大切です。

企画段階については、今後掲載予定である「システム導入の進め方(企画編)」で詳しく解説する予定です。
ここでは、主に基本設計について解説していきます。画面や帳票などの目に見える部分を決定していく過程なので、具体的な作業をイメージしやすいと思います。

【参考文献】
吉川弘之,富山哲男 2000『設計学―ものづくりの理論』放送大学教育振興会